特集 山本寛

第2回「アニメを愛する全ての“異常者”へ」

山本寛(以下、山本):アニメを見ている人間というのは、やっぱり異常者なんですよ。これは僕がずっと言い続けていることです。

アニメに関わる人間は、みんな異常者。

アニメに関わる人間は、みんな異常者である。この言葉を僕は言い続けています。アニメに関わる人間が、上っ面だけで自分は“まとも”だと思っているというのは、到底理解ができない。

  • アニメに関わる人間は、“なぜ”異常者なのでしょうか。

山本:アニメ自体が異常な表現であるとなかなか認識しづらいんですよね。なぜか、というのはアニメの本質にあります。

アニメーションの本質

アニメーションというものは、そもそもおかしいのです。アニメというのは、異常な表現なのです。キャラクターから何から何まで簡略化され、強調された世界がそこにはある。最近、話題の『ポプテピピック』のキャラクターがなぜ人間に見えるのか。瞳にコウモリがいるとか揶揄されたでしょう?だから、あのキャラクターが人間に見えていることが、既に異常な状態であるのです。時間・感情を含めて、いろんな物事を強調・簡略化するのがアニメの得意技なのです。

それを危惧した故・高畑勲さんは“正常な”アニメを描こうとした。正常な世界、正常な人間を描くという試みを50年以上挑み続けてこられました。

しかし、アニメというのは原則的に絶対に強調されるし、絶対に簡略化される。精神や心理も含めて必ずそうなってしまうのです。どう描こうが、起こりうる現象なのです。それに当てられた人間が異常になるのは当然ですし、それがアニメの原罪だと思っています。

正直、僕自身ももうおかしい。気が狂っているという自覚はあります。

ただ、それをまず自覚する必要があるということを、僕は訴え続けているのです。異常なものを異常であると自覚する能力が必要となる。

アニメは麻薬のようなものなんです。そういう感覚を我々に与える。それでいて「僕・私は、まともだ!」なんて主張することこそ、大きく間違っていると思うのです。

アニメの可能性

しかし、僕はそんな異常な表現であるアニメが、強調を得意とするアニメが、感情の複雑さを“表層”ではなく、より“深層”で理解できる瞬間を我々に与えてくれると信じています。その可能性をアニメは秘めているのです。日常生活において、普段、気づくことのない事を気づかせてくれる。そんな瞬間を与えてくれる存在でもあるのです。

描写にしても、草一本虫一匹を描くことによって「気づき」を与える。

スタジオジブリアニメの特徴でもあります。例えば、『天空の城ラピュタ』を見て「今日の雲はこんな形をしていたのか」と空を見上げたり、興味を持ったりするようになる。

『となりのトトロ』を見て「草木というのは、こういう風になっているんだ」と気づかされる。そのような体験をした方はたくさんいらっしゃると思います。それがアニメの真髄だと思っているのです。強調することによって発見を与えてくれる。アニメで描かれる“人間の感情”にも同じことが言えます。

今までの人生では気づかなかったことに気づかされる。

一つ原罪を抱えつつも、真実まで到達することがアニメの使命・贖罪です。

真実まで到達しなければ、それはただの罪なのです。

  

僕らアニメ制作者は、ただの“異常表現者”です。それを自覚することから始まるし、アニメに携わる全ての関係者に自覚してもらいたい。中途半端にアニメを描く・携わるというのは罪に値します。日本のアニメーションを切り開いた先人たちは、作品を描ききった。真実を求めた。だからこそ、アニメが文化として持ち上がったのです。 “ただ”好きというだけで中途半端にアニメに関わってる人間は、本当に解せないし、許せない。“奴ら”が狼藉を働けば働くほど、アニメの害悪な部分だけが浮き彫りになっていく。

製作委員会方式の悪癖
  • 監督は、ブログやSNS等でもプロデューサーという役職に疑問を投げかけるような投稿が見受けられますが、ズバリ、お伺いします。プロデューサーというポストは必要なのでしょうか。

山本:いらないです。監督とプロデュースは兼任してもいい。そこを分ける必要はあまりないし、はっきり言っていらないです。優秀なプロデューサーも若干いますが、その大半が肩書きだけを持った薄い愚かな人間です。

現在のアニメ制作においてプロデューサーと呼ばれている人間は、プロデューサー職を勘違いしている。プロデューサー職の役割が形骸化してきているんです。これはやはり教育不足が引き起こしたものでしょう。

  • 具体的にどういうことでしょうか。

山本:僕たちクリエイターというのは、学校の文化祭のように面白いものを一緒に作って、それを楽しんでいた。それを保護者のように見守るのがプロデューサーの本来の役割だったのです。しかし、その構造が完全に崩れてきた。見守るどころか、札束を手にクリエイターの頰を叩き、作品に対して口出しまでしてくる。自分達が無邪気に文化祭で遊ぼう!となった。そうなった以上、クリエイトする訳でもないこのポストが必要か?という疑問は当然浮かぶし、結論は当然ひとつです。

製作委員会方式の悪癖でもあります。本来、クリエイターを守るためにお金を集めるのが製作委員会の役割だった。それが現在では形骸化され、金を持っただけの頭の悪い集団になり下がったのです。

和田:「何もできないけど、アニメに携わりたい」という人間がやはり多くいて、その人たちが群れているだけの組織と化している。金さえあれば委員会のリスト入りするし、能力がなくても箔は付く仕組みになっているわけです。何か勘違いをしている。プライドでクリエイターにマウンティングすることしかできない人間が増えたのが現状でしょう。

山本:製作委員会は普通にスポンサーとして、黙ってればいいんです。金だけ渡して、「あとは頑張れよ!」くらいでいいはずなんです。金を出す出さないだけは自由です。乗れないなら出さなくていい。それが、「俺らがアニメを作るんじゃい!」と何か勘違いした製作委員会の連中が、その勘違いを引きずり続けた結果、製作委員会の存在意義を見失った。根本的な存在意義を理解できなかった。元々はクリエイターとお金のつなぎ役として機能していたのが、今は金だけ持ってクリエイター気取りで頓珍漢な口出しをしている。大した額も払ってないのにですよ?どうしようもないですよ本当に。

  • 製作委員会方式がかつてクリエイターとお金を密接に結びつける役割を果たしていた、と出ました。そこで改めて問います。やはりアニメ制作には、お金が必要なのでしょうか。

山本:勘違いしている人が未だにいますが、アニメはお金がかかるんです。

「アニメはお金がかかる。これが真実です。」

山本:アニメの制作費のほとんどは人件費です。今でも劣悪な環境で働かされているアニメーターは山ほどいます。アニメは数千枚の絵を書かなければいけない。これはCG化なども取り入れていますが、その労力は昔から変わっていません。さらにいうと、いまの方が昔より線が複雑になってきており、労力は数倍に膨れ上がってきている。

アニメはみんな勘違いしていますが、制作費が膨大にかかるのです。

 

これは、手塚治虫先生のせいにはしたくないですが、やはり手塚先生のせいでしょう。それをずっと業界が騙し騙し50年間引きずってきた。

今、原点に立ち返ってアニメ制作を見直す時がきているのです。

和田:今年も何社かスタジオが倒産していますね。

山本これだけアニメのファンが増えてくれたのは嬉しいことです。だからこそクリエイターのために資本の流れを変え、より良い制作環境で作品を作らせるべきです。

このままでは、日本のアニメ業界は終わりがくるでしょう。中国が日本のアニメ制作のノウハウを吸収して完全に負ける日が必ずきます。

これはだからアニメ業界だけではなく日本全体の問題でもあるわけです。その一つの縮図がこのアニメ業界です。堕ちるところまで堕ちました。

やっぱりアニメは、異常なんですよ。アニメを作ってきた偉大なる先人たちは、強い個性と知性によって、なんとかアニメを持ち上げた。その手が今緩まんとしている。そうなれば、この業界はもう終わりでしょう。

アニメであぶく銭を巻き上げたい奴がいるのでしょうが、アニメを続けるためには、元凶を絶やさなければならない。アニメ史を振り返り、もう一度アニメ制作を再考する時期が来ている。

実は昨年2017年アニメは100周年(※1)だったのです。誰も気づいていないですよね。アニメに対するリスペクトがない連中がアニメにしがみついている。アニメにしがみつかないこと。まずはそこなんです。

※1917年下川凹天、北山清太郎、幸内純一の3人によって、日本でつくられた初のアニメーション『凸坊新畫帖 芋助猪狩の巻』が東京・浅草で公開された。今日までに日本で制作されてきた作品は、アニメーションデータベース『日本のアニメーション大全』によれば、平成27年9月の段階で、シリーズ作品を含むタイトル数はおよそ11,238作品、サブタイトル数では154,106話にまで達しています。(http://anime100.jp/intention.htmlより)

自分のため、自分の機嫌や気分のためにアニメがあると勘違いした人間が増えすぎた。なんでそうなったかは、まだ正確には分析しきれてないですが、世代論だと思います。団塊ジュニアと呼ばれる世代が、プライドだけを持って今業界を支配している。いろんなところで言ってますが、この世代はどうしようもない、最低の世代ですよ。何もできないし、何も考えてない。

だから現在の20代をはじめとする世代が、今のアニメ制作を疑い、「やっぱりおかしいんじゃない?」とアニメを考え直してくれれば、15年後か20年後、再びアニメが復活してくれることを期待しています。しばらくは我慢です。

和田:それでも今、現状クリエイターに対する敬意が足りない業界へメスを入れたい。ファンも含めて僕らには、アニメを作れないんですよ。山本さんのような、アニメクリエイターにしか作れないのです。プロデューサーには作れないんですよ。

山本:「そんなに好き勝手作りたいんだったら、お前らが監督やれよ!」って話なんですけどね。その歪な結末が、やっぱり『WUG!』の新章ですよ。

業界全体が、クリエイターに対する敬意が足りない。

  

  • クリエイターへの敬意が欠けているというのはどういったものでしょうか。

和田:ビジネス的に「あ、もうダメだ!」となったら、打ち切るのが今のアニメ業界です。それはビジネスの世界で数字を出すのは当然のことだと思いますが、そのやり方ではクリエイターは育たないし、それでは後世に伝わるような名作は生まれてこないのです。作品はクリエイターのものであり、ファンを喜ばせるためにあるべきです。もちろん、原案を考えた人間は尊重されるべきなのです。現在のアニメ業界の一部の人間が行なっていることは、極めてクリエイターに対する敬意が欠けた行為です。

山本:お金の話が出てきたので更に話しておきますが、今までのアニメビジネスを振り返ってみて「アニメーションが、ビジネスのレールに乗ったことは、実は今まで一度もないのでは?」ということを最近考えています。それをアニメビジネスにおいて勘違いされている方々に問いたいのです。スタジオジブリだって最初は興行的にダメだった。それでもクリエイターを支えたプロデューサーやパトロンがいた。昔は献身的だったんです。

宮﨑駿さんだってそうして成功できたんです。クリエイターを認めてくれる存在がいたからこそアニメは持ち上がった。

和田:クリエイターというのは人として他とは異質な面白さがある。その面白さを許容できる、多様性を確保したコミュニティを作る必要があるのです。それができないのであれば、世の中から面白いものはどんどん消えていくよ?と伝えたい。目先の金を追ってると、この業界は廃れます。現状、尖った人材を排除する傾向にあるので、当然「山本を干そうぜ」って人間も出てくる。

  • 確かにクリエイターの多様性を確保することは重要ですね。

和田:クリエイターを育てず利益だけを追うならば、アニメはやめるべきです。ある業界の方が放った「いまは、アプリゲームだからね(笑)」という利益思考の言葉には、僕も山本さんも笑いましたよ。

山本:じゃあ、アニメなんかやめちまえよって(笑)。そういうアホは頼むからアニメに関わるな、と言いたい。

「アニメーションをやりたい」という後輩が僕のところにもよく訪れます。「絶対にやめとけよ」と忠告しますが(笑)。確認の意味でも「本当に、アニメ好きなのか?」と。そう言った出来事も増えたので、僕の今年からのテーマは「育てる」ということにしました。客を育てる、プロデューサーを育てる、クリエイターを育てる。

僕は社会的責任として教育的行動をしたい。

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山本寛は、これだけアニメの未来を悲観しつつも、なぜ「育てる」のか。

次回、第3回「我々の使命」近日公開。

記事:Anium編集部

撮影:富重林太郎

デザイン:天野匠

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特集 山本寛

第1回「君たち7人は、どう思っているのか。」https://anium.jp/2018/08/17/yutakayamamoto1/

第2回 「アニメを愛する全ての”異常者”へ」https://anium.jp/2018/08/20/yutakayamamoto2/

第3回 「我々の使命」 https://anium.jp/2018/08/23/yutakayamamoto3/ 

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山本寛:アニメーション監督。株式会社Twilight Studio取締役CCO。1974年生まれ。大阪府出身。京都大学文学部卒業後、京都アニメーションに入社。『らき☆すた』『かんなぎ』『私の優しくない先輩(実写)』『フラクタル』『Wake Up,Girls!』 などを監督し、現在は、クラウドファンディング発のアニメとして新作『薄暮』制作中。

Twitter:https://twitter.com/yamacane_0901?lang=ja

LINE BLOG: http://lineblog.me/yamamotoyutaka/

和田浩司:株式会社つかさ製菓・株式会社Twilight Studio代表取締役。 山本寛監督最新作「薄暮」においてプロジェクトプロデューサーを務める。現在、アニメクリエイターの制作環境改善、ICO(Initial Coin Offering)による資金調達等を積極的に取り入れクリエイターのサポートを行っている。‘

Twitter:https://twitter.com/misoman_jp

株式会社Twilight Studio:http://twilight-anime.jp/

「薄暮」:山本寛最新作。これまで同氏が手がけてきた「blossom」、「Wake Up, Girls!」シリーズに続く“東北3部作”の最後の作品。福島県いわき市を舞台とし、人生とは、恋とは、を描く長編アニメーション。クラウドファンディングCampfireにて目標額資金を調達し、現在2018年公開へ向け誠意制作中。

公式twitter: https://twitter.com/twilight_anime

campfire:https://camp-fire.jp/updates/view/56016#main

「薄暮」は原作小説無料WEB公開中。詳細は、上記リンクより。

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