特集 山本寛

第3回「我々の使命」

 

 

  • 監督は、今年からのテーマを“育てる”にした、と仰られました。どのような背景があるのでしょうか。

 

山本:第2回の記事にて問題を述べましたが、やはり啓蒙・教育していかなければならない。プロデューサーも、クリエイターも、ファンも。アニメに関わる全ての人間へ啓蒙を行いたい。育てるしかない。

やっぱり僕も“アニメが好き“だからこそこの業界に入ったわけです。お金が目的なら、こんな業界にいません。僕が大学を出て銀行や商社に行かなかったのは、何よりもアニメに魅力を感じていたからです。

そしてアニメ制作に携わることとなり、監督になった以上、作品への暴力は黙って見過ごすことはできないし、この先、アニメの未来を考えたら、育てる以外、道はないのです。

育てるというのは、大変なことです。面倒でもある。でも、僕もそういう歳になったということでしょうね。

 

  • ファンを育てるとは、どういった意味でしょうか。

山本:今のオタクは保身がすごい。“自分ありき“でアニメにしがみついている。

僕らの頃は、“アニメありき“で自分がいた。主客が逆転しています。岡田斗司夫(※1)さんも細かく分析されていますが、その考え方を否定し、一旦排除する必要がある。アニメファンの民度が落ちているのは間違いないです。そういう認識があって僕は発言を絶やさず、イベントを頻繁に開いたりして、ある種の啓蒙活動をしています。なんとか分かってもらうしかないんです。

 

※1岡田斗司夫:日本のプロデューサー、評論家。アニメ制作会社である株式会社ガイナックスの初代社長を務め、現在は株式会社クラウドシティ代表取締役、株式会社オタキング代表取締役を務める。2006年の講演「オタク・イズ・デッド」でオタクの世代間の格差を精細に分析している。

 

アニメがあって自分がある。自分はアニメに何ができるのか。

 

 

実は『WUG!』を制作した意義というのもそこにあります。長期シリーズをやることになって、じっくり理解してもらおうと。「推し」って何?というテーゼを込めて、『WUG!』は表現としてかなりわかりやすく作ったんです。そして、ようやく理解してくれるファンが増えてきた。同時に、やっと少しずつ悪質なアニメファンが減ってきているのですが、引き続き“育てる“ことを継続していかなければならないでしょう。

 

しかしやっぱり、一つ問題なのはSNSです。

民意

 

SNSは皆さんが思っている以上に業界に影響力を与えています。業界の経営判断に影響を与えているのです。現状、その圧力で制作体制が掻き乱される事態が起こっている。僕らの世代から、既に2ちゃんねるに影響されていました。そして何より、その2ちゃんねるに若い頃から入り浸って、あることないことを書き込み、制作に茶々を入れていた年齢層が今の業界のプロデューサーの世代なのです。その影響力は甚大です。今やキャストは「Twitterのフォロワー数」で決めているみたいですからね(笑)。

 

やっぱりアニメを愛するのは難しい。悪質なアニメファン、プロデューサーが暴れれば暴れるほど、アニメは堕ちていく。彼らには、そのことが理解できないか、あるいは保身のために気づかないフリをし続けているのです。

だから、アニメファンを啓蒙していくのはもちろんのことですが、“民意で制作の方向性が決まる”という流れを、じっくり考え直す必要があると思っています。

「日本フィルアニマチオン」を立ち上げたのもそれが理由です。

 

膨れ上がった民意をどうコントロールし、まっとうな道に導くか。それにアニメの未来はかかっています。

 

「なんでヤマカンは客に向かってこんな偉そうなんだ」と言われますが、そこから根本的に誤った意識です。じゃあなぜ客がそこまで偉いのか?お前らがアニメを牛耳っているのか?それ以前に、偉そうにしていれば面白い作品がどんどん生み出されるのか?答えは明白です。それすらも到底理解に及ばない。歪な誤解が少しでも減ればいい。別に、僕が一方的に啓蒙だ、啓蒙だと喚く必要はないんです。みんなが少しずつ賢くなればいい。アニメファンが賢くなっていかないとこの状況はまったく改善しないのです。

 

 

クリエイターの育成

 

山本:僕は京都アニメーションという片田舎のアニメスタジオの出身なのですが、やはり地方というのはアニメ制作において大きなアドバンテージが存在すると考えています。地方は、人が集まりやすい、人が出ていかない。横、上下とのコミュニケーションが取りやすい。アニメ制作においては、この上ない条件です。そういう利点もあって、僕は地方で人を育てたいと思っています。アニメの未来を支えるクリエイターたちを“今”育てなければ、アニメの未来はないですから。

 

ICO

 

和田:我々はアニメを“利用しているだけ“の世代を排除したアニメ制作を行いたいのです。

先ほど、クリエイター育成の話題でも出ましたが、若手のクリエイターにとって業界の壁は厚い、アニメに愛のない人間が重鎮として座っている。そんな現状を打開したい。業界をぶち抜きたい。という思いがあってICOによる資金調達を検討しました。

 

※ICO:initial coin offeringの略。山本氏、和田氏が所属するアニメスタジオ「Twilight studio」が独自に通貨を発行し、ICOを活用した「新アニメーション制作方式」の実現を目指すプロジェクトを始動。プレスリリース(http://twilight-anime.jp/news/20171229-001/

 

山本:僕も変革を望んでいます。自分ありきで作品をうまく扱えないどころか興味もない、アニメに愛のない人間が居座り続けるアニメ業界を変える方法があるとしたら、このICOプロジェクトなのではないかと思っています。

宮﨑さん、富野さん、庵野さん、押井さん。偉大なアニメクリエイターがみんなアニメを諦め始めている。「アニメ作らんでもええかな」という気持ちになってきている。そんな姿を見て、僕も“アニメはこのまま終わるんだろうな”と諦めていました。いや、今もそんな気分は少なからずある。

 

しかし、アニメ業界に悲観しつつも「やっぱり風穴を開けたい」と思っている自分がどこかにいるんですよ。

和田:私がICOを検討した理由としては、とにかくクリエイターの思いを大事にしたかったからです。いろいろなノイズを排除して作品を最後まで作ってもらいたい。目先の金儲けではなく、今頑張っている人がもっと頑張れる業界にしたいのです。

 

山本: 今のままのアニメ業界だと、いずれ終わりを迎えます。現状のアニメ業界も金が続く内はアニメを利用してなんやかんややってると思いますが、そこに後世に語り継がれるようなヒット作が生まれるかといえば、僕はかなり懐疑的です。マグレ当たりのヒットは今後もあるでしょうが、名作が生まれるわけでもなく、金が尽きるまでダラダラと作品が生まれていくでしょう。金が尽きたらそれまでです。だからこそ、アニメの未来を支えるのはプロデューサーではなく、あくまでクリエイターです。

 

和田: とにかく今、頑張って手を動かしている人たちに対価が支払われるべきです。現状、どんどん理想と乖離している。僕はアニメを作ることはできませんが、何らかの形で希望を作りたい。特に若者は、本当に肩身が狭すぎる。

 

山本:僕だってもっと大胆な表現に挑戦したいですよ。アニメ監督として、純粋に作品を作り上げたい。

 

 

薄暮という作品とは。
  • 現在制作中であるクラウドファンディング発のアニメーション『薄暮』は、どのような作品となっているのでしょうか。

 

山本:「アニメとは、人間とは、少年とは、少女とは。」それを自分の中で洗い直して描きました。

 

“少年と少女が出会って、恋するということはどういうことなんだろう”

 

奇を衒った表現からできるだけ離れた、シンプルな表現で制作しています。

僕は“僕のやりたいアニメ”を制作する。実は正直言うと、自分たちで業界を立て直すなんてそこまで大仰に考えてないんです。僕は、僕の作品を最後まで作り上げて、作品を作るスタジオがあり、それを見てくれるファンがいればそれでいいのです。「育てる」と言っているのは、あくまで自分の作品のためです。正直業界がどうなろうと心底どうでもいい。滅びかけの腐ったムラにいるつもりはないです。ただこのままじゃ、アニメがあまりに不憫だから、ちょっと仕掛けているだけなんです。

  • 『薄暮』をアニメーションとして制作を始めた経緯を教えてください。

 

山本:一つは、もう一度東北へ作品を届けたい。という思いから始まりました。

未だに回復しきれてないのですが体調を崩した時期がありまして、休養宣言を出したんです。そしたら、その直後に和田さんから「アニメ作りましょう!」とお声がけいただきました。しかし体調の面もありますし、「短編ならやります、長編やテレビシリーズは身体が持ちません」と返事しました。

そうして動き出したのが、僕が長年温めていた『薄暮』だったんです。結局、短編では伝わりきらない部分も多く、中短編ほどの長さになりました。

制作に全力を注いでいるのはもちろんですが、特に福島がイデオロギーに巻き込まれている部分は、繊細に描かなければいけないと思っていて、福島の方に時間をかけてヒアリングを丁寧に続けています。

和田:山本さんがずっと言い続けてきた東北へ何か届けたい。それはずっと僕の中でもありました。『薄暮』は脚本もド直球な作品なんです。素直に見て欲しいですね。

 

山本:ほっといても嫌な話は舞い込むので、『薄暮』くらいは、自分のペースでしっかり最後まで作りたい。素直に見てくれる人に届いて欲しい。

宇野(※2)さんからも「期待してますよ!山本さんは、表現の課題を持ってますから!」と言われましたが、「そんなもの知らん!『薄暮』くらい気楽に作らせろ!」って感じです(笑)。煽りにも乗らない。僕らしく、ゆっくり作って行きたい。

※2 宇野常寛 : 日本の評論家。批評誌『PLANETS』編集長。著書に「ゼロ年代の想像力」「母性のディストピア」「若い読者のためのサブカルチャー論講義録」など。

ただ体調不良や人間不信の部分もあって、本当にアニメを辞めようと思ってたんです。じゃあということで、「ヤマカン信任投票」としてクラウドファンディングを行いました。それが支援してくださる方のおかげで成功したので、もうやり切るしかない。気持ちを切り替えました。

「山本さんが作りたい作品を作って欲しい」と支援してくれた方が大勢います。僕の作品を望んでくれている人がいる。クリエイターにとって、それがまず出発点であり原動力となる。まずは完成に向け、一歩一歩進んで行きたいですね。

 

 

『WUG!』は、これからどうなるのか。

                                               

  • 改めて質問させていただきます。第1回にてお話ししていただきましたが、これから『WUG!』はどうなるのしょうか。

 

山本:実は今、『WUG!』を買い戻そうとしています。今、既に水面下で粘り強く交渉しているのですが、単に、僕は自分の生み出した“作品”を自分の元に戻したい。それだけです。

「壊れたおもちゃでいいから、返せよ!」という純粋な思いです。例えるならジャイアンとスネ夫に、自分のモノを取られただけじゃなくて壊された。それでものび太は、やはり手元に戻したいわけです。

そこで和田さんに相談したところ、「取り戻しましょう」という流れになり、交渉を始めました。こっそり言いますけど、ICOもそのための資金調達なんですね。

 

 

悪しき前例を作ってしまった。

 

 

悪しき前例を作ってしまった。

 

『WUG!』の件で、一つはっきりしていますが、間違いなくこれは日本アニメ史の悪しき前例となってしまった。こんな異常な状況が許されるアニメ業界であってはならない。本当にジャイアンとスネ夫がのび太からおもちゃを奪って嬉々とぶっ壊してる状態です。子供じみているし、気が狂っている。

 

 

  • 仮に取り戻すことができた場合、再度制作し直すということでしょうか?

 

和田:『WUG!』を作品として無事に取り戻すことができて、再スタートさせることができても、クリエイター陣を再度集めることはかなり労力がかかりますし、ハードルもかなり高い。諸々の調整も含めてかなり難しいです。

 

それでも、一人のクリエイターとして、これからの山本監督の活動を考えると、ここは声を上げなければならない。先ほども監督は仰られましたが、悪しきものには、悪であると言わないといけないのです。この業界の悪に、声を上げることのできるクリエイターが何人いますか?

 

裏では皆さん「山本さん、頑張ってください!」って言いますけどね。彼らは何するわけでもないので。

 

 

  • 例えば、もう一度『WUG!』を何らかの形によって続けることができたとします。

その場合、制作陣も大幅に変更されることが予想されますが、キャストが変更しても問題ないということでしょうか。

 

山本:そこには、あまり興味がないです。もちろん今まで僕が面倒を見てきた7人に対して愛情がないわけではないですが、最初に述べたように「辞めたいなら辞めれば?」ということだけなので、そこに固執はしていないです。

僕は僕が描きたかったアイドルアニメをもう一度、ちゃんとした形で終わらせたい。それだけ。クリエイターとして、始めたものは終わらせる。当然の責務です。

 

和田:キャストに関して同じメンバーが再結集というのは、難しいことかもしれないですが、山本さんが「もう一度、彼女らにお願いしたい!」って頼まない程度なら、彼女らの活動も思いも中途半端だったのではないか、というのが僕の意見です。

 

山本:とにかく『WUG!』を然るべきところで終わらせたい。僕は僕の作品にエンドマークを付けたい。僕が執着しているのは、作品。アニメ作品としての『Wake Up,Girls!』なんです。

それと、業界に対するある種の償いですね。何の意味も意義もなく、てめぇの機嫌だけで嫌がらせのように作品を取り上げ、嫌がらせのように壊す。そんなことがまかり通る業界であってはならないのです。それはこれからのアニメ業界のためでもあり、警鐘を鳴らすという意味での行動です。

和田:ここで行動しなければ、何も変わりませんからね。

山本:悪しき前例を作ってしまった。その責任として少しでも行動したいと考えています。

 

ー ありがとうございました。

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記事:Anium編集部

撮影:富重林太郎

デザイン:天野匠

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特集 山本寛

第1回「君たち7人は、どう思っているのか。」https://anium.jp/2018/08/17/yutakayamamoto1/

第2回 「アニメを愛する全ての”異常者”へ」https://anium.jp/2018/08/20/yutakayamamoto2/

第3回 「我々の使命」 https://anium.jp/2018/08/23/yutakayamamoto3/ 

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山本寛:アニメーション監督。株式会社Twilight Studio取締役CCO。1974年生まれ。大阪府出身。京都大学文学部卒業後、京都アニメーションに入社。『らき☆すた』『かんなぎ』『私の優しくない先輩(実写)』『フラクタル』『Wake Up,Girls!』 などを監督し、現在は、クラウドファンディング発のアニメとして新作『薄暮』制作中。

 

Twitter: https://twitter.com/yamacane_0901?lang=ja

LINE BLOG: http://lineblog.me/yamamotoyutaka/

 

 

和田浩司:株式会社つかさ製菓・株式会社Twilight Studio代表取締役。山本寛監督最新作『薄暮』においてプロジェクトプロデューサーを務める。現在、アニメクリエイターの制作環境改善、ICO(Initial Coin Offering)による資金調達等を積極的に取り入れクリエイターのサポートを行っている。‘

Twitter: https://twitter.com/misoman_jp

株式会社Twilight Studio:http://twilight-anime.jp/

 

 

『薄暮』:山本寛最新作。これまで同氏が手がけてきた『blossom』、 『Wake Up, Girls!』シリーズに続く“東北3部作”の最後の作品。福島県いわき市を舞台とし、人生とは、恋とは。を描く長編アニメーション。クラウドファンディングCampfireにて目標額資金を調達し、現在2018年公開へ向け、制作中。

 

公式twitter: https://twitter.com/twilight_anime

campfire:https://camp-fire.jp/updates/view/56016#main

「薄暮」は原作小説無料WEB公開中。詳細は、上記リンクより。

7件のコメント

  1. 大層なことを仰られているが、大仰な触れ込みでプロジェクトを立ち上げて7人の年端もいかない少女達の人生を変えておいてテレビ放映時点でお粗末なアニメを作ってしまった時点(いい例が極上スマイルのシーン)で山本氏は責任者、当時の監督として謝罪すべきだろう。コンテンツの始動時に転けてしまった時点でWUGの運命は決まっていたとも考えられる。1番疑問符が付くのが「辞めたいなら辞めれば?」で、能力不足で更迭された監督ごときが何故そこまで偉そうにできるのか。

    1. オタクさん

      あなたの勝手な主観で山本氏の監督した、アニメWake Up,Girls!をお粗末と断罪し謝罪を求めるなんて
      我がまま過ぎる。僕を含めてあの作品の根強いファンがいるからこそ、WUGプロジュエクトはここまで長く続いた。極上スマイルのシーンに関しては、もう少しよく調べた方がいいです。山本監督が全て悪いという強烈な悪い意味での信念が、真実を見えなくしてる。

      七人の人生を変えたというのには賛成。WUGとしてデビューしたことで、七人の人生は素晴らしいものになったと思う。WUGちゃんは、舞台となった東北でもイオンのCMに出たり、楽天のコラボナイターに参加したり、アニメやアイドルのファン以外にも親しまれていた。業界内にもファンが多い。
      こんなに愛されるユニットの一員として、声優デビューを飾れるなんて、とても幸運なことだと思います。

      あなたの文章からは山本監督を強く憎む気持ちが滲み出てる。能力不足で更迭されたという見方も、あなたの願望に過ぎない。何がそこまで山本監督叩きに駆り立ててるのか分からないけど、正直怖いです。

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